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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)835号 決定

抗告人 被申請人 若松種夫

訴訟代理人 三上英雄 外一名

相手方 申請人 石川孝司

主文

原決定を取消す。

相手方の本件仮処分決定執行取消の申立を却下する。

本件の総費用は相手方の負担とする。

理由

抗告代理人は主文第一、二項同旨の裁判を求め、その理由として、左記のように主張した。横浜地方裁判所は昭和三十一年十月十六日抗告人の申立に基いて、申立外共進機械工業株式会社と旭金属工業株式会社の両名を債務者として、右債務者両名に対し、「別紙目録(1) 及び(2) 記載の土地に立入つたり、債権者の右土地の使用及び占有を妨害してはならない。債権者の委任した横浜地方裁判所執行吏は右命令の趣旨を適当な方法で公示しなければならない」旨その他の仮処分決定をなした。相手方は別紙目録記載の(1) 及び(2) 記載の土地は自己の所有に属するとして右仮処分に対し民事訴訟法第五四九条による第三者異議の訴を提起すると共に、右仮処分決定の執行の取消を求めた処、原裁判所は右申立を理由ありと認め、昭和三十一年十月二十六日上記仮処分決定中上記記載部分の執行を第一審の本案判決をなすまで取消す旨の決定をなした。しかしながら右取消された仮処分は申立外債務者両名に対してなされたもので、ことにそれは土地の立入及び占有使用妨害禁止の不作為命令であつて、なにも「物に対する執行」というものは存しないのである。故に、その執行を取消すということは全く無意味なものである。相手方もその執行の取消を求め得るというような利益はなにも存しないのである。執行吏の公示を命じた部分も右不作為命令を受けているものであるから、右不作為命令の取消を求める利益がない以上、その部分の取消を求めることもできないものである。よつて、右原決定の取消を求めると共に相手方の執行取消の申立の却下を求めるため本件抗告に及んだのである。

よつて、本件記録を調べてみると、抗告人が債権者として申立てた仮処分の申請を理由ありと認めて、横浜地方裁判所がなした抗告人主張のような仮処分命令の一部について、原裁判所は相手方の申立により民事訴訟法第五四九条第四項、第五四七条第二項によつて、その執行を取消したことを認めることができる。右取消された仮処分命令は右債務者両名に対してのみ効力を有し、第三者である相手方に対してはなんの効力をも生じていないものであるばかりではなく、右仮処分命令の一部は抗告人主張のようにたんに債務者両名に不作為を命じたのみで、その命令が債務者両名に送達されることによつて効力を生じており、それがために第三者である相手方に対しては、なんの執行もないのはもちろん、法律上なんの影響も与えていないのである。右仮処分命令の残部の、執行文の公示の部分は法律上全く無意味のものであるばかりではなく、相手方に対しては法律上なんの効力も影響もないのである。民事訴訟法第五四七条による執行処分の取消は、第三者所有の物件を債務者のものとして差押えたというような具体的の執行(狭義の執行)がなされて、第三者の権利を害したような場合に、第三者の権利を保護するために執行の取消を認めているのであり、本件の場合のように、広義の執行しかない仮処分命令については、相手方が別紙目録記載の土地に対し所有権を有しているとしても、上記説示のように、右仮処分命令の執行が相手方の所有権はもちろんなんらの権利をも侵害していないのであるから、相手方はその執行の取消を求める法律上なんの利益をも有しないといわなければならない。よつて相手方の右執行取消の申立は不適法であり、この申立を理由ありとしてなした原決定は失当で、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、相手方の取消の申立を却下し、本件の総費用を相手方をして負担させ、主文のように決定する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 判事 中村匡三)

(別紙目録は省略する。)

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